眠れない夜に

 

第1夜【サプライズプレゼント】

お題協力im_m1107樣

 

 

同じ高校に通う恭子と付き合い始めてもうすぐ半年が経つ。

恭子とは同じクラスで席も隣。

 

 

 

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明日は僕の誕生日・・・。恭子と放課後にあう。

今まで女の子と縁がなかった僕は初めて自分の誕生日を家族以外の人と過ごす。

これは僕の念願だった。

 

 

 

「今日は緊急の朝礼があるからみんな整列して体育館へ移動しろ。」

 

 

クラスの担任が神妙な面持ちでそう言った。

いつもはふざけるクラスのムードメーカーも今日は素直に担任の言うことを聞いている。

 

それもそのはず。

先週末この学校の生徒が通り魔によって殺されたのだ。

 

 

「怖いね・・・。まだ捕まってないらしいよ。」

隣りでうつむく恭子に話しかけるが、恭子は何も答えない。

 

 

なぜか近頃恭子の様子がおかしい。

 

 

僕が話し掛けても答えてくれないばかりか、いつも一緒に帰っていたのに放課後になるとどこかへ消えてしまう。

 

 

でも僕はその理由に気がついた。

 

 

 

 

恭子は僕にサプライズするつもりなのだ。

 

 

 

 

 

 

恭子と初めてのデートで見た映画。

その中で主人公が彼女に誕生日を祝ってもらうシーンがあった。

誕生日間際になると急に彼女に冷たく接せられ、怪しんだ主人公が彼女の後をつけ秘密を暴こうとするストーリー。

オチは彼女は主人公に喜んでもらうためにサプライズを用意していた、という内容で

映画評論家がコメントすらしたくないと言ったほどチープなものだった。

 

 

僕も必死に眠らないように2時間耐え忍んだが

なぜか恭子はその映画をえらく気に入り最後は涙を流していた。

 

その後に行ったファミレスで僕は恭子に好かれたい一心で口八丁並べ

そのチープなストーリーを褒め称えた。

 

 

「主人公はあんなに彼女に思われて幸せものだな。」

 

そう言った僕の顔を嬉しそうに恭子は見つめていた。

 

 

 

 

 

 

恭子はきっとあの映画を再現しようとしている。

だから急に素っ気なくなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「通り魔の犯人はまだ捕まっておりません。放課後家に帰るときは一人で帰らずに、必ず誰かと一緒に帰ってください。」

緊急に開かれた朝礼を、校長はその言葉で締め括った。

 

 

「恭子、今日は一緒に帰ろう。通り魔が出るかもしれないからね。」

 

そう僕が話し掛けても、恭子は僕の顔を見もせず足早に教室を出ようとする。

 

 

 

僕はサプライズより恭子が通り魔に襲われないことの方が大事だ。

追いかけて恭子の腕を掴もうとした。

 

 

 

 

 

 

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しかし恭子の腕を僕は掴むことができなかった。

 

 

 

 

 

「あれ?すり抜けた・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

振り返ると僕の机の上には綺麗な花が飾られていた。

「え・・・。」

 

 

 

 

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僕は教室を飛び出し、土手を駆け抜け家に飛び帰った。

 

 

家の雰囲気は重く、眼を腫らした母と

残業で夜遅くまで家にいないはずの父がリビングの椅子に座っていた。

 

 

 

僕はリビングに隣接する和室へ向かう。

僕が小さい頃亡くなった祖母の写真の隣に、僕の写真が置かれていた。

 

 

 

 

明日は僕の誕生日で

恭子はあの映画の様に僕にサプライズを仕掛けてきて

僕はそれを渾身の演技で驚いたふりをする。

 

 

 

はずだった。

 

 

 

 

「サプライズじゃなかったんだ・・・。」

 

 

 

 

 

それからどれくらいの時間街を彷徨い歩いただろう。

気がつくと僕は再び学校へ向かっていた。

夜中の学校は不気味で幽霊でも出そうな雰囲気だったが、それが僕だと気付き少し笑った。

 

 

 

時計は0時を指そうとしている。

誕生日の瞬間は教室で過ごそうと思った。

 

 

 

 

 

 

偶然同じクラスになり、偶然隣の席に座り、偶然好きな音楽が一緒で

偶然話しが合い、偶然お互いに好意を抱き、偶然僕らは付き合い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここにいたんだね。」

 

 

 

 

 

背後から声を掛けられ、僕は驚いて振り向いた。

 

 

 

 

 

「誕生日おめでとう。」

 

 

 

 

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恭子がこっちを見て笑っている。

ふと見上げると時計は0時を示していた。

 

 

 

「何で?」

僕が尋ねると恭子は笑顔で答えた。

 

 

 

 

「サプライズだよ。」

 

「サプライズ?」

 

「あれ?もしかして覚えてないの?初めてのデート。私あの映画の真似してたんだよ。」

 

「いや、覚えてるけどさ。そうじゃなくて・・。」

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、プレゼントも用意していたのに・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時グチャグチャになっちゃったんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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恭子の視線の先には花が手向けられた机が2つ並んでいた。

 

 

 

 

 

 

偶然同じクラスになり、偶然隣の席に座り、偶然好きな音楽が一緒で

偶然話しが合い、偶然お互いに好意を抱き、偶然付き合い始めた2人は

 

 

 

 

 

 

偶然同じ犯人によって殺された。

 

 

 

 

悲しすぎるサプライズだったけど

僕の念願は叶った。